シャーロックホームズから見る、「需要」の問題について。

アイキャッチ 創作


こんばんは。
ピクセルアニメクリエイターのおかか容疑者でございます。


先日、アマプラでこのようなアニメを観ました。


Amazon.co.jp: トムとジェリー シャーロック・ホームズ (字幕版)を観る | Prime Video


言わずと知れた人気作品、トムとジェリーがシャーロック・ホームズと共演するという、聞いただけでなんだこれ面白そう!!と興味を惹かれてしまう作品です。
作風としてトムもジェリーも(不必要なほどに)酷い目に遭い続け、何回も変形しながらホームズ達と共にダイヤモンド盗難事件の真相に迫っていきます。

動きの細やかさに感動しますね。「ここまで動かさなくていいだろ」みたいなところまでよく動きまくる!
そしてストーリーも危険をかいくぐりながらの調査が続いてスリリング!
途中からは有能な白い犬(このキャラクター知らなかったんですが、ドルーピーという別作品のキャラなんですね)もトム達の敵サイドとして登場してきて、ドタバタ劇がさらに加速。
かつ最後は熱い決闘シーンもあって、非常に楽しませていただきました。



ワタシも一応はシャーロック・ホームズの物語もちょっとだけ読んだこともありまして。(ワトソンが一夜漬けで宝石の知識を詰め込む羽目になるお話でした。助手って大変やんな……。)
そんなわけで、今回はホームズにまつわる話からいろいろ考えたことをお話しさせていただこうかなと。



コナン・ドイルにとってのシャーロック・ホームズとは

ホームズに関する話としてそれなりに有名と思われるものが、「作者のコナン・ドイルはシャーロックホームズを書きたくなかった」という話。
少なくともワタシからすると、「あれだけの大人気作品を作者が嫌うってどういうこと?」と思ってしまいます。
というわけで、この話の詳細をちゃんと知っておくべく、一度コナン・ドイルについて調べてみることにしました。
(以下、シャーロックホームズのネタバレが含まれます。ご注意ください。)



アーサー・コナン・ドイル – Wikipedia
Wikipediaによりますと、ドイルは本業である医者の仕事の傍らで、本来は歴史小説を書きたかったということなんですね。
当時のイギリスでは歴史モノが一流で、探偵小説というのは二流という評価をされていたそうで。
名を残すならそりゃ歴史小説だろう。とチャレンジしたものの、結果としては最初は全然評価されなかったみたいです。
そこから医師としての生活も苦しくなってきたため、生活のために探偵小説を書いて小銭稼ぎをしていた。
その流れで生まれたのがシャーロックホームズだったと。


ホームズの物語は雑誌に掲載されるたびにどんどん人気が上がり、ファンもどんどん増える。
なので書けば書くだけ売れる!という状態になっていたわけですね。
作家としては間違いなく大成功です。


しかしドイルはその中で、「やっぱり歴史小説が書きたい!」という思いが強くなっていった。
そこでホームズを作中で絶命させることで、もう続きを書けないようにしたのです。
当然ながらファンから非難されるわけですが、その中でドイルとしては本命である歴史小説、「ジェラール准将」シリーズという作品を書くこととなります。

このジェラール准将シリーズもそれなりの人気は出ていたようです。
ですがやはりというべきか、ホームズの人気には及ばなかった。
ファンからのホームズ復活希望の声もだんだん大きくなり、最終的にドイルはホームズを復活させ、またホームズの新たな物語を書くことにしたようです。



※Wikipediaの最後の方にも書いてありますが、ドイルとしては最終的にはホームズについて「もしホームズが最初からいなければ、私はこれ以上の仕事をしてこれなかっただろう。」と話し、ホームズの存在は必要だったという旨の話をしております。
ホームズがドイルの他作品の評価に影響を及ぼしているので素直に感謝だけしているわけではなさそうですが、とりあえずよかったですね。




人のためか、自分のためか

ホームズについての一連の流れをお話しした上で、本日の本題です。



日本のスーパーイラストレーターである「さいとうなおき」先生が、以前YouTube動画で大切なお話をなされていました。
「マーケットイン」と「プロダクトアウト」という概念です。


どういう意味か簡単にお話ししますと、「マーケットイン」は「顧客中心」、「プロダクトアウト」は「製作者中心」といった意味合いの言葉となります。
平たく言えば「需要」のお話ですね。

仕事をマーケットインの考え方で捉えると、「お客様が求めているのはどんなものだろうか?それを知って提供していこう」というアプローチができますね。
仕事をプロダクトアウトの考え方で捉えると、「とにかく自分が良いと思えるものを作り出そう。そしてそれを皆に知ってもらい、価値をつけてもらおう」という感じでしょうか。



この考え方は今回のドイルの小説にもそのまま当てはまりそうですね。
「シャーロックホームズ」は読者が求めている「マーケットイン」的な作品。(市場調査などは特にしていないと思いますが。)
「ジェラール准将」は作者が本当に書きたい「プロダクトアウト」的な作品。


生活のためにお金を稼ぎたいなら、ドイルはホームズだけ書いていくのがおそらく正しいはずです。
ですが、さいとうなおき先生は「マーケットインの作品も、プロダクトアウトの作品も、どちらもバランスよく作っていくことが大事」だとおっしゃっています。

当然ながら、プロダクトアウトの作品というものは得てして評価がされづらいものです。
では作る必要がないのか?と言われればそんなわけはなく。
作者の側の明確なメリットとして、2つ思い浮かびました。


1つは「自分の好きなものを何にも遠慮せずに表現することができる」点。
マーケットインの場合はどうしても、他者(世間)の価値観というものを多分に取り入れる必要がございます。
直接依頼を受ける場合も同様。依頼人の方が喜ぶ作品を作り上げることが第一となりますね。
そのため、作者の自我を発揮できる部分はかなり少なくなります。

イラストですと絵柄だったりで見た人から認知してもらえる要素もございますが、作者が表現したいものが出ているわけでは必ずしもありません。
しかしプロダクトアウトの作品であればそういう要素が一切ナシ!
100%オレ流スタイル。「こういうのが好きなんだよ!!!!」を全力投球して作れるため、他者へのアピールとして非常に強いものになり得ます。


2つめは「コアなファンを増やせる可能性がある」点。
今のお話からご理解いただけると思いますが、プロダクトアウトの作品は基本的に万人向けにならないものが多いと思います。作者が好きなモン吐き出してるだけですからね。
ですので、逆にその作品が刺さる人がいたなら、その作者の気風はかなりマッチすると思われます。
すなわちコアなファンになり得るわけですね。
ワタシはこの点を語れるような人間ではございませんが、そういった方々を少しずつ増やしていくのは長く活動をするのなら必要になってくるだろうなぁと。


加えて、また別の利点も考えられます。
もしかしたらそのプロダクトアウトの作品が他のクリエイターに大きな影響を与えるかもしれない、という点です。

マーケットインを意識しすぎて、「今は世間的に〇〇が人気だから〇〇みたいな作品を作ろう!」ということを皆がやっていたら、世の中に出てくるどの作品も似たり寄ったりになってしまいますよね。
作者の個性を存分に発揮した斬新な作品が、新しい主流のキッカケになるかもしれません。プロダクトアウトの作品にはそんな魅力があります。
先の話と同様に、「刺さる人にはめっちゃ刺さる」。そういう作品も絶対に必要だと思います。



なので、

マーケットインの作品を作りつつ、その傍らで少しずつプロダクトアウトの作品も並行して進めていく。
プロダクトアウトの作品にファンが付いてきたら、ちょっとずつこちらにも力を入れていく。

これが一番ベターな作品の作り方なのかな、と。

今回の話で言うと、個人的にはドイルが一番マズかった点は「ホームズを無理やりに終わらせてしまった上でそこから新作に取り掛かったこと」でしょうか。
連載作品なので時間の余裕も無かったのだと推測しますが、どうにかジェラール准将シリーズも少しずつでも先に世に出して、うまく二作品を両立しつつ肯定的なファンを増やせていれば結果は違ったのかもしれないな、と思えてしまうのです。




まとめ

今回はシャーロックホームズの話から、マーケットインとプロダクトアウトについての話を絡めて考えたことをお話しいたしました。

人から求められる物を作るのがプロ。もちろんそれはそうですが、自分の独自の世界を表現する場もまた必要になるのだろうなと。
クリエイター的な仕事では特に意識する必要がある話になりそうです。人からの依頼に応え続けて自分の表現したいものを表現できなかったら、どこかで枯れていってしまいそうですからね。
バランス、大事。






さて…そろそろお時間です。
またのご面会、心よりお待ちしております。

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